
駆動力途切れず微調整が容易 坂道発進やスタック脱出有利
アイシンGMアリソンのユーザー取材で訪れた十和田湖国立公園協会の好意で、取材対象車であるトルコン式オートマチックトランスミッション搭載車、それも白動車メーカー
主催の試乗会では絶対に乗ることができない塵芥収集車の実車を使って積雪路走行やスタック脱出などを経験、ATの特性を改めて実感することができた。駆動力伝達が途切れな
いAT車の積雪路でのメリットは何が試乗インプレッションを報告する。(編集部)
燃費特性はMT車と遜色ないレベル
試乗したのは日野レンジャーに塵芥収集ボデーを架装した最大積載量2tの中型塵芥収集車。エンジン(過給)は排気量6.41で最高出力220ps (2700rpm)/最大トルク58.5
kg-m(1600rpm)を発揮、これに組み合わせているトランスミッションがアイシンGMアリソンのパーキングレンジ付きトルコン式5速オートマチックトランスミッション(1000モデル)である。終減速比は5.142。
同協会が保有するもう1台のMTの中型塵芥収集車(日野レンジャーベース)は最大積載量2.05t。エンジン&トランスミッションは205ps・54kg-m/6速で終減速比が4.1。
AT車とMT車のスペックはほとんど同じだが、終減速比だけが異なっており、AT車のほうがかなり深い設定となっている。ちなみに、この深い終減速比とMTに比べ燃費が不
利なATの条件を重ね合わせると、一見燃費が相当悪いように考えがちだが、そうではない。実際の走りを左右するオーバーオールレ
シオ(変速比×終減速比)でみると、数値的にはATとMTはほぼ同レベルに揃えられており、燃費差がそれほどあるわけではない。
AT車の燃費に対する偏った誤解を払拭するため、AT車とMT車のオーバーオールレシオについて簡単に触れておきたい。
日野レンジャーに搭載されるアイシンGMアリソンの5速ATは1速(発進段)の変速比が3.102で2速1.811そして5速が0.712となっている。今回試乗したATの塵芥収集車の
終減速比5.142と5速の変速比0.712を掛けたオーバーオー用レレシオは3.66。これに対して、先に比較として挙げた終減速比4.1の6MTの中型塵芥収集車の6速の変速比が1より浅
い0.761としても、オーバーオールレシオは3.12であり、それぞれ最高段数でのオーバーオールレシオの値はAT車とMT車でそれほど変わらないということになる。
ATは発進してから駆動力の伝達ロスがゼロになるロックアップ(直結)が利くまで滑りが生じるため、MTに比べて燃費は不利だが、巡航速度で走っている分には燃費は変わ
らない。また、アイシンGMアリソンのATは2速からロックアップが利くため、発進&停止を繰り返す集配業務においてもラフな運転を行うMT車と比べれば、スムーズな走り
を心がけたAT車のほうが優位である。
人為的にスタック初期段階の状態(上の写真)にしてから脱出を試みる。アクセルを踏み込み過ぎるとタイヤがスピン、アクセルを戻すとともにグリップが回復、ゆっくりと前進して脱出に成功(下の写真)。動力伝達が途切れないATはアクセルワークだけでタイヤスピンを微調整できる利点があり、スタックから脱出しやすい

アクセルワークでスリップを調整
燃費に絡む問題はこの程度にして本題である試乗インプレッションを記したい。
積雪路における不可抗力のリスクといえばスタックである。荒れた路面にタイヤがはまり込むこともあれば、除雪が不十分な路面に進入してスタックさせてしまうこともある。
また、停車中に雪が降り積もって脱出困難になることもある。スタック脱出はタイヤの性能に関わる要素が極めて大きいが、車としては動力伝達特性を含めてスタックの脱出操作
がしやすいかどうかがポイントになる。
もっとも、脱出を試みるに当たってはタイヤを空転させて掘り下げたような状態になれば、タイヤの通り道を均すか、牽引脱出を図るかのいずれかだが、今回の試乗では車を降
りずに自力脱出が可能なスタック初期段階でAT特性がどのように生かされるのか、あるいはスタック脱出の運転操作はどうかという点を重視してスタック脱出を試みてみた。
除雪して試験的に設けた荒れた圧雪路面に車を乗り入れ、後輪がスタック初期状態にしてから、白力脱出する方法で何度か繰り返した。まず、後輪のタイヤが窪みにはまり込ん
だことを確認してから、2〜3回前進&後退を繰り返して前後方向のスペースをつくる。この運転操作は、シフトレバーをリバースとDレンジへ前後方向に動かすだけであり、
MT車のようにクラッチ断接とシフトレバーを同時に行う煩わしさはない。タイヤの動きが前後方向にストロークが大きくなった頃合いを見計らってアクセルを踏み込むと、スタ
ックが甘かったせいか、いとも簡単に脱出した。再度後退してラフな路面に後輪を突っ込んだあと、アクセルを踏み込んでタイヤをスピンさせて雪の路面をわずか掘り下げてから、今度はアクセルをラフに踏み込んで脱出を試みたところ、車がちょっと前進して段差を乗り越える手前でタイヤがスリップ。この
状態からアクセルを徐々に戻すと、エンジン回転の低下とともにグリップを徐々に回復、ゆっくりとした動きで脱出した。
下り坂の走行は速度を抑えた走りがセオリーである
スタック脱出を行った路面は平坦。しかも試乗車はボデー内に収集した資源ごみがそのままでハーフロードでの試乗となり、リアタイヤに荷重がかかっているため、条件的にス
タック脱出は有利な状態だったが、AT車のスタック脱出の有利性はAT特性からも説明ができる。というのは、ATの場合、エンジン駆動力の伝達が途切れることがない。この
特性を生かせば、タイヤがスピンするかどうかのぎりぎりの状態でタイヤに回転トルクを与えることがアクセルワークだけで容易にできる。完全にスタックせず、タイヤのグリッ
プを利かせやすいスタック初期段階であれば、スタックを悪化させるリスクのある反動をつけた一気呵成の脱出を図らなくても、タイヤをゆっくり回転させることで脱出が可能である。
ちなみに、MT車の場合、タイヤに回転トルクがかかり過ぎないように3速、あるいはその上のギアを選んで前後方向にスペースを広げ、前後方向に勢いが増した段階で反動を
つけて一気に脱出するのがセオリーだがタイヤをスピンさせないようにクラッチ操作に細心の注意が必要である。脱出できる状態にあっても、ラフなクラッチ操作でスリップさせて逆にスタックを深くさせてしまうケースが多いことを考えると、シフトレバー操作と右足だけでタイヤへの駆動力伝達を微調整できるAT車は失敗が少ないといえる。
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